沖縄旅行の基本はここから
電動機室の水は、ダイパーにも海の流れにもじゃまされず、五0年間停滞している。
その区画でチャタトンが動いたら、茶色い泥が舞いあがり、視界はゼロに落ちる。
チャタトンの吐いた泡が、天井に浮いている燃料や潤滑油をかきまぜ、それによって彼のマスクは曇り、目が見えなくなり、口にはいる。
捨て身の計画「このうちのどれかひとつが起きても死ぬんだぞ」コーラーはいった。
「ひとつだけなら、まだ運がいいほうだ。
それがまとまって襲つできたら、あっというまに死んでしまう。
それに、もしかすると最大の危険はまだほかにあるかもしれない、ジョン」「どんな?」「あんたはその区画にひとりではいることになる。
たとえおれがこの無茶な計画に賛成して、燃料タンクのこちら側で待機すると同意したとしても、あんたが困ったことになってもおれは助けに行けない。
おれにタンクははずせない。
子どもたちがいる。
養う家族がある。
おれにできるのは、燃料タンクのこちら側からあんたが溺れ死ぬのを見るのがせい、ぜいだ」「ここでやめるわけにはいかない」チャタトンはいった。
「おれには計画がある。
だから潜るんだよ、リッチー。
これこそ芸術だ」「死は確実だっていうくらい危険なんだぞ」「ぜひともおれと一緒に来てほしい」「おれはやめるよ、ジョン。
おれに期待するな」ふたりは電話を切った。
チャタトンの計画が、地元のダイビング界に広がった。
意見はふたつに分かれた。
ジョン・ューガやダニー・クロウエルなどチャタトンの友人たちは、チャタトンは「すっかり頭がやられちまった」と断言した。
チャタトンの顔しか知らないようなひとびとは、もっと関心が薄かった。
「死にたいというのなら、死なせてやれよ」と彼らはいった。
チャタトンとコーラーは、三日間口をきかなかった。
コーラーは、数えきれないほど多面的にその計画を思い描いてみたものの、決まっておなじ結末にいたった『チャタトン、か溺れてぐったりしているか、落下した鋼鉄の下敷きになっていて、自分はというと、狭いすきまを通り抜けることができず、チャタトンを助けに行けない。
だが、もっとちがう光景も頭に浮かんだ。
〈UWho〉にはじめて潜ったときのことだ。
水中でアンカー・ロープにつかまっているとき、チャタトンの収穫袋に皿がはいっているのを見てすっかりうれしくなり、もっとよく見ょうと無意識のうちに袋に手を伸ばした。
チャタトンが、彼から袋をさっと遠ざけた当時ふたりは相手のことも、また相手の属する世界にも好意をいだいてなかった。
一瞬、にらみあった。
そのときチャタトンに、コーラーの真心が見えたようだつた。
すこしして、彼は袋をコーラーに渡した。
コーラーはチャタトンに電話をかけた。
「ジョン、おれはあんたが死ぬのが怖いんだ」コーラーはいった。
ここであんたを見捨てたりはしないよ」「おれたちはパートナーだ、リッチー」チャタトンは答えた。
「でもおれたちはパートナーだ。
「挑戦しよう」第一回の計画実行の日は、一九九七年八月一七日と決まった。
その日の数週間前から、チャタトンは、自分の部屋で、ガレージで、あるいはスーパーマーケットで、自分の動きをリハーサルした。
道捨て身の計画化師やバレリーナが、一歩の狂いが死を招くことになる発表会の練習をするように。
このころには、離婚話はほぼ終局を迎えていた。
一九九一年に彼が〈Uーwho〉を発見したとき、結婚生活は永遠につづくと信じていた。
ところがいまキャシーは、このむこうみずなUボート潜水計画を知りもしなかった。
いく晩か、結婚生活の終わりを、身動きできないほど嘆いたこともあった。
そういうとき、彼は自分にいい聞かせた。
このダイビング以外のことは、なにも考えないようにしないとならない。
もしもほんのわずかでも気を散らせば、生きて戻ってはこられないだろう」八月一七日、チャタトンとコーラーにくわえ、五人の最上級レック・ダイパーを乗せた〈シーカー〉は、〈UWho〉に向けて出発した。
船の上ではだれもが黙りがちだった。
朝になると、チャタトンはコーラーと、計画を再度打ちあわせた。
一本めのダイブでは試験的にタンクをはずしてその感触を知り、電動機室の入口の様子を調べ、その区画の雰囲気を見ることにしていた。
コーラーは、落下した燃料タンクの上部を泳ぎながら、懐中電灯で照らして灯台の役目を果たし、チャタトンから遺物が手渡されるのを待つ。
「合図は三回だ」チャタトンがフィンを足にはきながら、コーラーにいった。
「ハンマーで三固たたくとか、ライトを三回点滅させるとか、なにかの合図を三回送ったら、おれが苦境におちいったしるしだからな」「わかった、あんたが苦境におちいったしるしだな」コーラーは答えた。
「だが、おれが天井のすきまを通って助けにいくことはできない。
だから、三回の合図は基本的に、あんたの死を意味する」「ああ、その通りだ。
あとは気にするな」数分後、チャタトンとコーラーは海にはいった。
チャタトンは全部で三本のタンクを持った電動機室内で使う一本と、潜降と浮上のさいに使う小型タンク二本である。
〈U1who〉に到達すると、チャタトンは二本の小型タンクを沈没船の上に置いて、主タンクで呼吸をはじめた。
ふたりは、ディーゼル機関室の大部分をふさいでいる燃料タンクへ向かって泳いだ。
チャタトンが背中からタンクをおろして、前で持った。
コーラーは上昇し、チャタトンが通り抜けるつもりの燃料タンクと天井のあいだのすきまのほうへただよった。
チャタトンはフィンでキックし、上へあがりながら前方へ泳ぎはじめた。
あと一メートルほど前進すれば、すきまの向こうヘタンクを押しこみ、この無謀としかいいようのない計画の開始となる。
が、すきまにすこし入れた肩を抜いて向きを変え、すでに解明したも同然のこの謎に逆戻りできる時間は一瞬あった。
彼は、フィンを蹴る足を止めなかった。
数秒後、タンクをすきまの向こう側へ通し手から落とさないように用心してそのあと自分の身体をくぐらせた。
向こう側へ行くと、またタンクを背負った。
〈Ujwho〉のこの区画ヘダイパーがはいるのはこれがはじめてだ。
彼は探索をはじめた。
電動機室へつづく通路にじゃまものはなかった。
その区画へはいる四角いハッチへ泳いでいって、それをくぐった。
いま彼は、電動機室のなかにはいった。
彼とコーラーが、沈没船の艦名を記した物体があると信じる場所だ。
もっと奥へ行けというように、謎の解明に努めてきた六年間に背中を押されたような気がした。
彼はその衝動を抑えた。
これまでのところ、実験は成功だ。
タンクのガスはあと一0分間分残っていた。
その時聞を、この区画の出入りに慣れるために使うことにしていた。
ディーゼル機関室の落下した燃料タンクのところに泳いで戻ると、天井近くのすきまから身体をこじいれ、向こう側の床におりたった。
そこでタンクをつけてから、小型タンクを置いた船体上部まで、泳いで、レギュレーターを取り換えた。
これで、減圧のためのガスはじゅうぶんに確保できた。
コーラーは捨て身の計画きれて、首をふった。
チャタトンの実験は、ほぼ完壁に成功した。
その日二本めのダイブは、悪天候で中止となった。
つぎのツアーは、一九九七年八月二四日に設定された。
その週が過ぎるうちに、コーラーの心配はすこし落ち着いた。
チャタトンが実験ダイブを再現できれば、あのとんでもない男は、この明確な目標とやらを成功させられるかもしれない。
計画は、前回のツアーのときと一点をのぞいておなじになるはずだった。
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